GIGAスクール構想とは?教育ICTに必要なネットワークアセスメント
2019年、文部科学省は全国の小中学校に生徒一人ひとりに対応した端末を配布し、高速かつ大容量の通信ネットワークを整えることで新しい学習スタイルを実現する「GIGAスクール構想」を発表し、今年で5年目を迎えようとしています。GIGAスクール構想の実現に向けて、様々な取り組みが進む中で、どんな取り組みなのかを正しく理解できない方も少なくないのではないでしょうか?ここで改めて、GIGAスクール構想について学んでいきましょう。
1.GIGAスクール構想とは
GIGAスクール構想の「GIGA」は「Global and Innovation Gateway for All」の略称になります。文部科学省が2020年6月に発表した「GIGAスクール構想の実現へ」によると、「多様な子供たちを誰一人取り残すことなく、公正に個別最適化され、資質・能力が一層確実に育成できる教育ICT環境を実現する」と書かれています。これまで蓄積されてきた教育方法の実践と最先端のICT教育を掛け合わせることで、教員および児童・生徒の能力を最大限に引き出すことがGIGAスクール構想のねらいです。
2.GIGAスクール構想の目的
GIGAスクール構想の主な目的は、教育の質を日本全国どこでも同じ水準に引き上げ、すべての児童・生徒に平等な教育機会を提供することです。このGIGAスクール構想は、IT技術の活用を通じて、教育現場の課題を根本から解決しようとするものです。例えば、生徒一人ひとりにカスタマイズされたデジタル教育ツールを提供することにより、一人ひとりの学習スタイルや能力、ペースに合わせた教育が可能となります。
この取り組みによって、特に地理的な制約に左右されることなく、個々に合わせた高品質な教育を全生徒が受けられるようになるという点が最大のメリットです。加えて、教育現場でのICTの導入は、教師の働き方にも大きな変革をもたらします。教師は、教材のデジタル化やオンラインでのリアルタイムフィードバックを活用することで、より効率的かつ効果的に授業を進めることができるようになります。授業中に各生徒の取り組みを随時チェックし、個々の状況に合わせたダイナミックな指導が可能となります。さらに、生徒は異なる教材を同時に学ぶことができ、その学習記録が端末に保存されるため、生徒の理解度を把握しやすく、それに基づいた個別指導や自己主導学習を促進することができます。
また、GIGAスクール構想は、学校教育の枠を超えて、家庭学習や放課後の学習支援にも役立つツールを提供することができます。これにより、生徒は学校だけでなく、家庭でも学習を継続することができ、教育の機会をさらに広げることができます。このようにして、生徒一人ひとりの潜在的な能力を引き出し、個々に合わせた教育を実現するための環境が整備されていきます。
これらの施策は、教育のデジタル化が進む中で、日本の未来を担う若者たちにより多くのチャンスと可能性を提供することを目指しています。GIGAスクール構想によって、生徒一人ひとりが自身の興味や適性を活かし、最大限に能力を伸ばすことが期待されています。
3.GIGAスクール構想の背景
このようなGIGAスクール構想が策定された背景は、急速に進化するデジタル化の波と、それに伴う教育現場における機会の不均等さにあります。情報技術の発展は、多くの産業や生活に革命をもたらしていますが、教育分野ではこの進展が一部の児童・生徒にしか恩恵をもたらしていない現状があります。特に経済的、地理的な理由でアクセスが制限されている地域の学校では、端末や最適なインターネット環境などの教育資源の不足が深刻な問題となっています。
このデジタル格差は、学生の学習機会に大きな影響を与え、結果的に社会全体の不平等を増大させる要因となっています。政府は、これを是正するために、全国の学校に高品質なデジタル教育環境を提供することで、地域や経済状況に関わらず、すべての学生が同じスタートラインに立てるよう「GIGAスクール構想」の実現に向けた取り組みを強化しています。
さらに、新型コロナウイルスのパンデミックは、オンラインでの教育の必要性を急速に高めました。世界中の多くの学校が閉鎖を余儀なくされる中で、教育の継続が大きな課題となり、これまで当たり前に行われていた教室での学びに代わる新たな手段として、デジタルツールの利用が急速に広がりました。この状況は、オンライン教育の潜在能力だけでなく、既存の教育システムの脆弱性も浮き彫りになり、教育のデジタルトランスフォーメーションが急務であることが明らかになりました。
GIGAスクール構想は、これらの課題に対応するために策定されたもので、すべての学校で質の高い教育を提供できるような環境を整えることを目指しています。政府は、このGIGAスクール構想を通じて、教育機会の平等の実現に向けて積極的な取り組みを実施しています。
4.GIGAスクール構想の対象
GIGAスクール構想の対象となるのは、全国の公立の小学校、中学校の児童・生徒で、政府の目標は、2023年度までに全児童・生徒に1人1台のデジタル端末を提供し、それを支える適切なネットワーク環境を整備することでした。このGIGAスクール構想により、生徒の居住地域に関わらず、高品質な教育を受ける機会が保証されることが期待され、この一環として、地方や過疎地の学校でも、都市部の学校と同等の教育環境を提供することで、地域間の教育格差を解消する目標が掲げられていました。しかし、端末が配布されてもうまく活用できていない学校が無数に存在していることも事実です。
さらに、特別支援学校における児童・生徒に対しても、この構想は積極的に適用されています。障害を持つ生徒たちが使用する端末には、特別な機能やアクセサリーが提供され、それにより彼らの学習ニーズに合わせた教育が可能となります。例えば、視覚障害を持つ生徒のための音声読み上げ機能や、聴覚障害を持つ生徒のための視覚的に理解しやすい機能が組み込まれた端末が提供されることで、すべての生徒が等しく教育を受けることができるようになります。
自治体の教育委員会がこのGIGAスクール構想の実現に向けて主動で取り組んでおり、具体的な施策の計画立案や実行において中心的な役割を担っています。
GIGAスクール構想は、ただ単にデジタルデバイスを学校に配布するという表面的な取り組みではなく、教育の質を全国的に向上させ、すべての生徒に等しい教育機会を提供するための総合的なプログラムとして展開されています。自治体や教育委員会が主動的に関与することで、この構想はさらに地域に根ざしたものとなり、それぞれの地域の特性に合わせて最適な教育環境を整備していかなくてはなりません。
5.GIGAスクール構想のメリット・デメリット
メリット
GIGAスクール構想によるメリットは多く存在します。GIGAスクール構想により、全国の児童・生徒に地域や学校の規模に関わらず高品質な教育が提供され、デジタルツールを用いた教材の視覚化やインタラクティブな学習が理解を深める教育環境を実現します。また、テクノロジーを活用することで、各生徒の学習進度や理解度に応じたカスタマイズされた教育が可能となり、個々の興味や強みに基づいて学習効果を最大化できます。さらに、デジタルデバイスの導入により、生徒は時間や場所に束縛されることなく自由に学習を進めることができ、自宅や移動中でも教材へのアクセスが容易になり、学習機会が格段に広がっていきます。
デメリット
一方で、デメリットも存在します。GIGAスクール構想の導入には、教育方法の変化に対して保護者への十分な説明が必要であり、デバイスの適切な使用方法やインターネットの安全性に関する情報提供が求められます。これにより教職員の業務負担が増加する可能性があります。また、教員は新しいICTツールの使用方法を習得し、授業に統合する必要がありますが、全教員が技術を同じ速度で習得するわけではないため、適切な研修とサポートが必須となります。この過程で教育現場に追加の負担が生じ、教員の技術適応を支援するための継続的な教育プログラムの整備が重要となります。
6.GIGAスクール構想の問題点
GIGAスクール構想は、全児童・生徒に1人1台の端末を提供することにより、ICTを活用した教育を推進していますが、いくつかの問題点があります。端末が提供されても、実際に授業で全生徒が同時に端末を使用する環境を整える必要があり、多くの学校で校内ネットワークの整備が追いついていないのが現状です。特に、帯域幅の不足や接続問題は、授業の質に直接影響を与える大きな課題となっています。さらに、デバイスの普及に伴い、プライバシーとセキュリティの問題も深刻化しています。生徒の個人情報保護とデータの安全管理は、新たな課題として学校側に大きな負担が発生しているのも現状です。
これらの問題に対処するためには、単に端末を配布するだけでなく、校内ネットワークの強化や教職員のITリテラシーの向上、セキュリティ対策の徹底が急務です。具体的には、ネットワークインフラのアップグレード、適切な帯域幅の提供、安定したインターネット接続の保証が必要です。また、教職員への定期的なIT研修を実施し、デジタルツールの効果的な教育利用方法を指導することが重要となってきます。さらに、端末の使用に際してのセキュリティポリシーを策定し、生徒と教職員に対して適切な情報セキュリティ教育を提供することが不可欠となります。
7.GIGAスクール構想実現に必要不可欠なネットワークアセスメント
GIGAスクール構想の下、すべての児童・生徒にデジタル端末が配布されることは大きな進歩ですが、端末をただ配るだけではなく、それを効果的に活用できる環境を整えることが重要です。特に、教育現場でのインターネット利用が普及する中で、クラス全員、もしくは学校の生徒全員が同時にオンラインで作業を行う際のネットワーク容量や安定性は、授業の質を大きく左右します。このため、単にネットワークのアップグレードを行うだけでなく、現状のネットワークの設定状況や帯域幅が適切か否かの調査をし、それに応じた対策を実施することが必要となります。
具体的には、学校のネットワークが全生徒の同時接続に耐えられるかどうか、遅延やエラーが発生しないかなどです。このような調査をネットワークアセスメントと言い、不可欠なものとなります。
ネットワークアセスメントでは、現在の学校のネットワーク環境を詳細に調査・分析し、データの流れや帯域幅の使用状況を確認します。これにより、必要に応じてネットワークの改善や拡張が行われ、すべての生徒が授業中にスムーズにインターネットを利用できるようになります。また、将来的な教育内容のデジタル化の進展に伴う追加的なネットワーク負荷も予測し、計画的なアップグレードが可能となります。
単純にネットワーク環境をアップグレードするだけではコストがかかるだけでなく、現状の通信状況を把握できないため、将来的に同じようなことが起きかねません。
教育現場におけるデジタル化の推進は、適切なネットワーク環境が基盤となるため、ネットワークアセスメントはGIGAスクール構想を成功に導くための重要なステップとなります。ネットワークアセスメントを通じて、教育機関はより効果的に技術を教育に統合し、児童・生徒に最適な学習環境を提供できるようになります。
8.当社の実績
当社の事例を紹介すると、東京都内の某区でネットワークアセスメントを実施しました。
区内の対象の小中学校ではiPadなどのタブレット端末を用いた授業が行われていますが、全生徒が同時に教材にアクセスする際に通信問題が発生しており、端末が使われたり、使われなかったりと授業の公平性が確保できていませんでした。このような状況から、教育現場ごとに異なるネットワークの課題を正確に把握し、具体的な問題に対応するためのネットワークアセスメントの策定が必要とされていました。当社はこのネットワークアセスメントを通じてネットワーク品質の調査および管理台帳の作成を行い、それぞれの教育機関に合わせた最適な調査を実施しました。これにより、教育現場での通信問題に対する解決策を提案し、より良い教育環境の整備に貢献しています。
9.まとめ
GIGAスクール構想は、教育のデジタル化を推進し、全国の児童・生徒に均等な高品質な教育機会を提供することを目指しています。この構想は、地理的な制約に依存せずに、一人一人の学習スタイルに合わせた教育を実現するためのデジタルツールを導入しています。また、教師の働き方改革や家庭学習の支援もこの構想の重要な部分です。しかし、全生徒にデバイスを提供することの難しさやデジタル格差の是正、教員のITリテラシー向上といった課題も残されています。これらの課題に対応しつつ、教育現場でのICTの積極的な活用を進めることが、GIGAスクール構想の成功には不可欠になってきます。
GIGAスクール構想を進める第一歩として、まずは、現状の校内ネットワークがどのような状況なのか、児童・生徒が同時に同じ教材や資料にアクセスしても問題なく全員が閲覧可能な状況にあるのかなど、様々なネットワークの状況を確認の上必要な施策をしていくことが重要となっています。
当社でも、この第一歩となる、校内ネットワークの状況調査である「ネットワークアセスメント」を実施しています。是非気になることがありましたらお問い合わせくださいませ。
【参照】文部科学省:https://www.mext.go.jp/a_menu/other/index_00001.htm